自費出版への思い  東北学院大・渡辺裕也



「人間には何かやっておくことがある」と創栄出版株式会社の社長新出安政さん(71)は熱く語り始めた。





創栄出版から自費出版された本に囲まれながら語る新出社長=仙台市若林区五橋、同社内のあゆみの図書館



仙台で自費出版事業を41年続け、多くの出版物を世に送り出してきた。会社設立当初仕事は、ほとんどなく、経営は決して楽ではなかったはなかった。それでも自費出版にこだわり続けている。



なぜ自費出版にこだわり続けるのだろうか─。そこには「地域の出版文化を発展させる」という思いがある。誰でも自由に本を出版できる環境を作り出すことは、地域の出版文化を発展させることにつながるため、一般の人でも利用しやすい自費出版を普及させようと活動している。



 確固たる信念を持って自費出版を広めるために仕事をしてきた新出社長であるが、現在に至るまで多くの苦労や苦悩があった。若い頃に家が貧しく、自ら働き学資を得ながら苦学の末に大学を卒業した。当時の空腹感は今でも昨日のことのように覚えている。苦い体験を思い出すことで、自分自身を奮い立たせることができると、自分の体験を肯定的にとらえている。



 東日本大震災の際には、震災の記録証言集『あの日のわたし—東日本大震災99人の声』を出版。全国から震災体験を募り、その中から99の体験を選び本にした。99にした理由は、「読者が100人目となって語り継いでほしい」という願いが込められている。



 より早く震災の記録を残すことができるものを製作できることはよかったが、大きな苦悩もあった。当初は、震災の惨状を記録し、後世に伝えようと始まった企画であるが、震災直後に多くの人が家族や友人を失った気持ちの整理ができる前に募集をしてしまったことや、応募作品に被災者への支援にはならないかと懸賞金を付けたが、そのために順位づけをしてしまったことなどは、現在振り返ってみると、問題があったと後悔しているそうだ。



 新出社長は苦労や苦難を乗り越えながら、初心貫徹で今後も今後も自費出版を普及させていくために活動していこうとしている。



「人間には何かやっておくことがある」



新出社長にとっての何かとは自費出版だったと言える。今後も多くの自費出版を手がけて、たくさんの本を世に送り出していくだろう。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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