手紙に寄せる想い。震災からのアルバム製作   東北学院大3年・佐藤陽



ピンク色の紙に猫が花束を持ったイラスト。今にも行線からはみ出しそうな大きな文字。「心からおみまい申しあげます」「ぶじ届きほっとしました」「一生だいじにします」



東日本大震災後すぐに全国の小学生から斎藤コロタイプ印刷(仙台市青葉区一番町)に寄せられた手紙だ。ちょっと背伸びした大人びた表現に、感謝の気持ちを精一杯伝えようとする姿勢がにじむ。

 

2011年3月11日に起きた震災は、卒業シーズンと重なった。交通網の寸断からアルバムを出荷できない状況が続いた。「卒業式までに子ども達へアルバムを届けてあげたかったのです」と生産担当部長の菅野幸久さん(49)は当時を振り返る。







震災後に手がけたアルバムの前に立つ菅野さん。子供たちからの手紙を読み微笑む





運送業者に頼み込み、トラック3台を確保した。北海道から関西まで自社で配送し、なんとか卒業式までには届けることができた。



同社は、およそ100年前の大正11年に創業した。当初は、観光地の写真絵はがきを作る会社だった。写真を美しく印刷する技術を生かし、戦後は卒業アルバムの製作を柱にしてきた。現在は、東北唯一のアルバムに特化した会社として、全国3,500校以上の卒業アルバムを手掛る。



アルバムは思い出を形にする。卒業アルバムを開くといつでも記憶と再会できる。友だちの声、学校の鐘の音、机の臭いや感触。瞬く間に懐かしい日々へと帰ることができる。



アルバム製作は年を越してからが正念場だ。約130人の従業員が総出になり、昼夜を問わず製作に追われる。最終工程には人の手でアルバムを専用の箱に入れる作業が待っている。「アルバムとともに、作り手の想いも箱に収める」。菅野さん自らも夜通し作業する。



アルバム製作が佳境を迎えた今、菅野さんは全国から寄せられた「ありがとう」の手紙を思い起こす。「感謝の想いが詰まった手紙は、日々の糧になっています」。大切に保管した手紙を支えに、アルバム作りを続ける。


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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