声なき遺品が語る現代社会    東北大3年・塚本大介



 「ドアを開けると一面血の海で…。呼吸をできないほどの死臭と、床には無数のウジやハエの死骸が広がっていました」。作業員の菊池哲也さん(43)は、自殺が起きてから数週間たった、ある夏の暑い日の部屋の様子を語る。



菊池さんが勤務する「仙台ホーキング」(仙台市青葉区)は、宮城県内唯一の特殊清掃会社だ。自殺や孤独死の現場で、汚れやにおいなど死の痕跡を消し去って原状回復をし、遺品の整理を行う。創業は2011年2月。及川信一社長(66)は「現在は月に数件の依頼件数。まだまだ知名度は低いです」と言う。



依頼は遺族や不動産会社から舞い込む。現場に着くと、作業員たちはまず線香をたき、静かに手を合わせ、見知らぬ故人に思いをはせる。近所への配慮から、悪臭が充満していても窓は全開にできない。防護服に身を包み、神経を使いながら、淡々と丁寧に作業を進める。







遺品の整理を行う菊池さんと、お焚き上げの時を待つ数々の遺品=仙台市青葉区、仙台ホーキング





宮城県の自殺・孤独死者数は年間480人(2011年)に上る。県内の東日本大震災の被災地の仮設住宅では、今夏までに37人が孤独死した。特殊清掃の現場は、人間関係が希薄化する社会の影を映す。「誰かが責任を持ってやらなくてはいけない仕事だと思っています」。及川社長と菊池さんは口をそろえる。



遺品の中には、遺族に引き取られない物もある。位牌なら芯抜きを、写真や本ならお炊き上げを。遺品をただ捨てるのではなく丁寧に供養するのは、モノに込められた故人の思いを大切にしたいという、同社の信念からだ。及川社長は「遺族の中には、遺品を見ようともせず『全部捨ててくれ』と言う人もいる」と寂しそうにつぶやく。



会社の倉庫で菊池さんは「これらはすべて遺品で、あとはお焚き上げを待つだけです」と、多くの遺品を見せてくれた。



卒業アルバム、書道の作品、賞状…。故人の生きた証がそこにはあった。



遺族に引き取られず倉庫の片隅に眠っている数々の遺品は、人と人とのつながりが薄れた現代社会のひずみを、静かに物語っていた。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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