被災地を語る 「証人」 語り部タクシー    東北福祉大2年 武藤大紀

 


実際に被災したタクシードライバーが被災地を回りながら、当事の様子や被害について語る「語り部タクシー」。


桜井慶哉さん(66)は震災で義理の息子と自宅を失った経験を乗客に語り継ぐ。


 


常に被災地の最新状況を見てきた桜井さんは主張する。


「最初こそ復興に対して意欲的でしたが、継続した支援は見られません。しかも住民の声が反映されていない一方的なものが多いです。誰とは言いませんがね」


桜井さんはこの仕事に強い使命感を持って臨んでいる。


「頼りになるものが少ない中、自分で出来ることをしたいんです。私の場合は、震災の記憶をこれからも『伝える』ことです」。


サービスを始めた頃は、悲痛な記憶を思い出し涙することもあったという。


しかし、そういったリアルな経験だからこそ利用客の心に響くことも桜井さんは知っていた。


利用後に届く手紙に並ぶ、感謝の言葉がそれを物語っている。


支援が充分ではない仮設住宅の存在を知った乗客が、食料などの支援物資を送ったこともあったそうだ。


タクシーを止め、家主のいない住宅の前に立つ。


吹きさらしのその家から、当時の人の営みは感じられない。


「津波の危険性を知っていれば助かった命がいくつもありました」。


 


 



被災地の現状を語る桜井さん


 


 


将来発生が確実視されている南海トラフ地震や中部沖地震に向けて、遠方から来る利用客に防災意識を持ってほしい。


東日本大震災のような凄惨な被害を繰り返さないでほしいと桜井さんは語った。


語り部をすることで、さまざまな形で復興や風化の阻止、そして防災に役立つ一助になる「伝え続けますよ」。


まっすぐな眼差しから、決意の固さが伺える。桜井さんはこれからもハンドルを握り続ける。


 


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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