E班原稿 「セリ作りに込める地元愛」

東北大3年立田祥久、東北学院大3年中澤直哉、広島大3年酒井春佳、宮城学院女子大3年竹林美歩


 


 


シャキシャキとした歯ごたえ、独特の野趣ある香り。


セリのうまみを根っこまで味わい尽くす「セリ鍋」が近年、仙台でブームだ。


市内の居酒屋が競って提供し、予約しないと食べられないほどの人気になっている。


 




「地元の伝統野菜を、みんなが食べてくれるのはうれしいねえ」


名取市下余田で「仙台セリ」を栽培する大内繁徳さん(50)は顔をほころばせた。


8代続く農家の長男。


地区の芹出荷組合の組合長として、40の農家を率いる。


 



「これからも長く愛されるセリを育てたい」とほほ笑む大内さん=3月中旬、名取市下余田




宮城県のセリ出荷量は全国1位を誇る。


中でも下余田地区は、東京ドーム2個分のセリ田が広がる県内屈指の産地だ。


四季を通じて一定の水温を保つ澄んだ地下水が、良質なセリを育む。


 


2011年の東日本大震災では、沿岸部にある排水設備が津波によって壊された。


セリ田の水を下流に流せなくなり、下がった水温の影響でセリの緑は色を落とした。


 




それでも組合農家は栽培を続けた。


震災直後の「非日常」の中で、地元のセリを食べて「日常」を感じてほしかったからだ。


「見栄えは劣るが、味も栄養価も大丈夫」


簡素な食事が続いていた避難所に配り、喜ばれた。


名取市内の仮設住宅にも2年間、年末年始に届けた。


地元の人々にセリの存在を再認識してもらうきっかけとなった。


 




組合の働きかけは、地産地消の新たな流れを生んだ。


料理の脇役が、セリ鍋で一気に主役として浸透したのはその証。


地元のパン屋と仮設商店街の惣菜屋からも注文が入り、「セリ入パン」「セリ入り春巻き」が誕生した。


 




一面緑の美しいセリ田が広がる下余田地区から車で5分。


いまだ、仮設住宅が立ち並ぶ。


400年の歴史を誇る伝統野菜の作り手として、何ができるのか―。

組合長は信じる。


「震災以前と変わらず栽培し続けることが復興の一助になる。できることを地道に続けるだけです」


ブームでは終わらせない。


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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