伝統の味に新たな一手    日本大4年  大内裕斗

 


 


「安全な食品を口に運んでほしい」。


塩釜市の揚げかまぼこメーカー「マルブン食品」の3代目社長、佐藤文行さん(54)は話す。


1969年の創業以来、化学調味料を使わない製法を守り続ける。


日持ちはしないが「毎日製造・毎日出荷」をモットーに、従業員87人とともに製造に励む。


 


2011年の東日本大震災では、2つの工場のうち1つが全壊した。


福島第一原発事故による風評で、東海以西の売上は震災前の30%ほどに減少。


取引先は、「東北だからダメだ」と離れていった。


ホームページ上で製品の放射線量を開示し安全性をアピールしているが、今も一部の取引先を失ったままだ。


 


震災以降、延べ300人に及ぶ取引先や消費者から励ましの手紙や支援物資が届いた。


「事業停止によって一度は棚から消えた商品が戻ってきて嬉しい」との文面に、「涙が出そうになった」と佐藤さん。


「こんなにもたくさんのファンがいる。悲しませる商品を作ってはいけない」と奮起した。


 



新商品「和つまみ」シリーズを手に、笑顔を見せる佐藤さん=塩釜市の「マルブン食品」本社


 


震災から3年を迎えた3月、新商品である「和つまみ」シリーズ(全4種)の販売を開始。


おでんや煮物といった冬に需要が多いさつま揚げを、温暖な時期に酒のつまみとして楽しんでもらおうと考案した。


中でも角田市産枝豆を使った「秘伝豆」はふわっとしたかまぼこに、歯ごたえの良い枝豆の絶妙なアクセントが際立つ。


ほかにも塩釜市の地酒「浦霞」など、宮城の食材を積極的に使用している。


 


将来的には、工場敷地内に直売店を開店する計画だ。


製造現場を見てもらい、揚げたてのかまぼこを試食させる。


消費者とじかにコミュニケーションを図ることで、製品のアピールにも繋げる。


「伝えなければ伝わらない。現場を見て、安心で安全な食材を使用していることを知ってほしい」


今もなお震災のつめ跡が残る塩釜市。


変わることのない製法と新たな商品展開で、地域の食卓に安心と安全を提供し続ける。


 


 


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。