大きな想いを小さなコインケースに

B班

東北大3年 小林直秋

宮城学院女子大3年 大熊望鈴

法政大3年 勝間田知佳

明治大2年 高橋太一


     ◇       ◇      ◇


ウェットスーツの国内シェアNo.1を誇るモビーディック社は宮城県石巻市にあります。

2010年秋からはウェットスーツ地を使ったコインケースなどのアクセサリー作りにも手を広げ、

潜水やサーフィンに縁のない老若男女の支持を広げています。

「多少コスト高になっても、メイドイン石巻を貫きたい」


自社ブランド「Chos(チョス)」をけん引するアクセサリー課主任菊田信也さん(34)は、

新しい試みの先に古里石巻の再興を夢見ます。


 



<Mr.Zennyを手にする菊田さん。ウエットスーツは国内トップシェアを誇る=宮城県石巻市鹿又のモビーディック本社>


 


ウェットスーツメーカーの新たな試み


その名は「Mr.Zenny(ミスターゼニー)」。

Chosの中で屈指の人気を誇る小銭入れです。

鶏卵のような形と大きさ。

表には半開きの目が刷られています。



<愛らしい顔が印象的なMr.Zenny。6色ある中で、一番人気はこのレッドです>


 


口を模したファスナーを開けると、

舌を出したもう一つのゼニーが顔をのぞかせる愛くるしい商品です。

赤や青など全6色。

税込み1404円で、市内の観光施設やネットで販売されています。


 


チョスの名は地元の方言「ちょす」に由来します。

「触る」の意味で、「いつも身近に置いて愛用してほしい」との願いを込めました。

有名アパレルブランドと組んで新しい意匠を取り入れるなど、浸透に余念がありません。



<ウエットスーツ地を使ったアクセサリー雑貨「Chos」シリーズ。コインケース、USBケース、ボトルフォルダーなど豊富でカラフルなラインナップです>


モビーディック社は創業1963年。

以来半世紀、石巻を拠点に成長を続けてきました。

手がける9割はオーダーメイド。

仕入れた生地を型紙に合わせて裁断し、縫い合わせて立体に。


小さな穴や縫い残しが潜水士やサーファーらの命に直結します。

潜水プールを構えて検品するなど、品質は「海上保安庁ご用達」の折り紙つきです。



<ウエットスーツの注文の9割はオーダーメイド。客の好みに応えるため、常に大量の生地をストックしています>


 


「いい素材なのにもったいない」


丈夫な素材でも、裁断の過程で出た余りは長年、捨てられていました。

「何とか活用したい」。

端切れでボトルホルダーなどを作り始めると、消費者の反応は上々。

しかし、余り生地の宿命から色やデザインはその時次第のため、

市販化にあたっては専用の生地を使いました。



<以前は捨てられていたウエットスーツ生地の端切れ。これから新しい命が吹き込まれる>


「ゼニーを旗頭に、Chosブランドを全国に広めよう」


意気込んだ矢先の11年3月11日、東日本大震災は起きました。

内陸部にある本社は津波被害こそ免れたものの、沿岸部の協力工場2社が全壊。

停電もあり、製造はストップしました。


生産再開は4月に入ってから。

潜水着は当時、不明者の捜索や復旧工事の現場などから引く手あまたで、

「アクセサリーなんて…」という雰囲気でした。


福音は意外なところから舞い込みました。

「仮設住宅に住む人たちが、仕事がなくて困っている」。

菊田さんら、同社の面々はひらめきました。

生地の接着、製品の検品・梱包などを約40人の仮設住宅入居者に託したのです。


自宅で作業する人、工場で打ち込む人。

「みな力強い助っ人。被災した方には再起の一助になればと思いました」。

ゼニーは被災者と共に、息を吹き返しました。


 


「被災地だから」に頼りたくない 


今も作業を担うのは約20人。

新たな仕事が見つかったり、他地域に移住したりしたからです。

その陰で、震災発生から4年近くになる今でも、日常を取り戻せない人がいます。

ゼニーの生みの親でもある仮設住宅入居者に話を聞かせてほしいとお願いしたところ、

やんわりと、「そういう心境にはなれない」という趣旨の回答をいただきました。

勝手な想像の域を出ませんが、


被災者であることを特別視され続ける日々への、悲鳴のようにも聞こえました。



<大好きな石巻で大好きな仕事を続けていきたいと語る菊田さん>


 


「この石巻を愛する仲間と共に、この地でゼニーを作り続ける」


決意を新たにする菊田さんは「『被災地だから』」という理由より、

製品の確かさでゼニーを評価してほしい」と故郷の明日を思い描いています。


     ◇       ◇      ◇


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。