お客さんを想うかばん作り 宮教大4年 播磨凌

「いらっしゃい!」。


店の扉をガラガラと開けると、目の前にドンと構えた職人が笑顔を見せる。


仙台市青葉区大町の「菅井光男カバン店」は創業147年の老舗。


四代目の菅井光男さん(85)は、かばんの修理と制作一筋に生きてきた。


 


「お客さんのために、丈夫に作るのが職人の仕事だから」と話す菅井さんは、


丁寧な手作業を心掛け、一つ一つの仕事にこだわりを持つ。


良質な生地を使用し、工程に手間ひまを掛けることで、一生物のかばんを作れると言う。


「仕上がりのきれいさを客から褒められるのはうれしい」と口元がゆるんだ。


いざ作業に入ると、先程まで客に見せていた笑顔は打って変わって真剣な顔つきになる。


革生地を迷いなく裁断する職人の目には、仕上がりに妥協を許さない厳しさが見られる。


 


かばん作りには、客との対話を大切にしている。


注文を聞き、要望に沿ってかばんを仕立てる。


使用する生地やデザインをこだわるのは、「お客さんが喜ぶかばん作りをしたい」という想いからだ。


 


菅井さんが手掛けた小銭入れ専用のカバンを長年仕事で使っているのは、地元のタクシー運転手。


「菅井さんの腕を信頼してるから、他の店じゃだめだね」とほれ込む。


口が5つあり、お釣りや売上金を分けて入れるのに便利だ。


新人を研修する際には、道を案内する途中に店に立ち寄って、菅井さんを紹介する。


菅井さんの技術は、良質なかばんを求める客に評判だ。


 


関東や四国地方からも、かばん制作の発注がある。


菅井さんは「愛媛県の企業からは、定期的に車掌かばんの注文があるよ」と顔をほころばせた。


昔ながらの車掌かばんの需要に応える、貴重な腕だ。


 


残念ながら、菅井さんの後を継ぐ者はいない。


最盛期と比べて仕事数は大きく減少し、弟子をとっても生活に苦労させると思い断ってきた。


「店は自分の代で終わり。寂しいけど、おれは死ぬまでやるから」と笑った。


職人は愛用の道具を手にし、再びかばん作りに取りかかった。



【手作りしたカバンを手に笑顔を見せる菅井さん=仙台市青葉区大町】


--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。