若者の再出発へ、練り物屋のエール 津田塾大3年 大石真由



【被災地が抱える心の問題について語る高橋英雄さん=東松島市大塩】


 


 「不登校、引きこもり、ニート。

世の中では見て見ぬふりをされることがある。

でも、避難所で彼らと話してみると、みんな根は良い人って気が付いた。

放っておくなんてできない」と語るのは、高橋英雄さん(64)だ。




 高橋さんは水産加工を営む「高橋徳治商店」の3代目社長。

石巻市で創業し、111年の伝統を受け継ぐ。

さつま揚げをはじめとする「無添加」練り製品の製造、販売を行っている。




 2011年、東日本大震災に伴う津波で石巻の全3工場が操業停止。

高橋さんは家族と離れて工場近くの避難所に9週間暮らした。

再開できる見通しもなかった。

「砂浜に孤独の『孤』を書いたよ。何のために生きているのか、自問自答する日々だった」。




 避難所生活で見ず知らずの人と関わる中、

見つけたのは心を閉ざした若者の根底にある輝き。

「この輝きを埋もれさせてはいけない」と、

若者の可能性を引き出す活動に自分も参加できないかと考えた。




 社会参加に不安を抱える若者の就労支援を行う

「石巻地域若者サポートステーション」から協力要請があったのは、

2014年はじめ。

高橋さんは「ものづくりという武器を生かし、

若者が仕事に就く手助けができれば」と快諾した。




 その年の4月、石巻の20代男性を職場体験生として3日間受け入れ、

笹かまぼこの製造ラインを体験してもらった。

「少しでも自信につながっていればいいけど」と高橋さんは願う。




 震災から4年半。

「被災地の根っこの問題はここ。心だよ」と胸に手を添えた。

石巻地域若者サポートステーションによると、

震災を機に不登校やひきこもりの増加が表立ってきたという。

「自分は社会に必要なのか」と悩む若者に、

高橋さんは避難所での自分の姿を重ね合わせ、それぞれの胸の内に思いを馳せる。




 無事就職できたとしても、やめる人、アルバイトを転々とする人も少なくない。

「若者たちがいつでも帰ってこられる場所、駆け込み寺のようにできれば」。

本業を守りながら、若者の自立に貢献できる会社を目指す。


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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