笑顔生む地域の「台所」 東海大1年 猪股修平

 8月下旬の昼下がり。特売日で混み合う仙台市青葉区中山の「オカザキスーパー」で、常連客の80代男性がしみじみとした口調で言った。「この店は中山になくてはならない存在。なくなったら俺が干からびてしまう」


 威勢の良い声が響く店内に、早朝に仕入れた生鮮品や店で作った総菜が所狭しと並ぶ。店の創業は周囲の住宅がまばらだった1971年。40年以上たった現在、周辺は大型スーパーの進出が相次ぎ、市内でも有数の激戦区だ。3代目社長の岡崎敏郎さん(49)は「値段では大手に負けるかもしれないが質は負けない」と自信を見せる。


 店は配達サービスに力を入れている。丘の街・中山では買い物のたびに坂を上り下りしなければならない。客の負担軽減のため、40年ほど前、敏郎さんの父で創業者の故俊雄さんが配送車を購入し、店頭で購入した商品の無料配達を始めた。10年前には保冷車を導入し、電話注文の受け付けも開始。量や距離に関わらず、一律料金で配送する。高齢者世帯や子育て中の主婦を中心に店から5キロ圏内で1日30~40件配達する。「ネギ一本から配達しますよ」と副店長の鴨田敏博さん(44)。配達先で電球の交換を頼まれたこともある。


 東日本大震災では底力を見せた。本震から30分後に雪が降る中、店の前で営業を再開。翌日からは岡崎さんと従業員らが取引先の問屋や農場を回り、商品を仕入れた。「オカザキは閉まっていない」。営業の情報は口コミやSNSで広まり、大崎市や松島町などの遠方からも客が訪れた。「小さな店だからこそ素早い対応ができた。『オカザキがあってよかった』というお客さまの声があったから頑張れた」と岡崎さんは振り返る。


 地域からの厚い信頼を得る一方、震災後は電気料金の値上げなどで厳しい経営状況が続く。しかし岡崎さんは中山を離れるつもりはない。「一小売店を超えて、地域から必要とされる存在でありたい。より中山に根付いた『地域粘着型』で経営を続けていく。


 



配送トラックの前に並ぶ社長の岡崎さん(左)と副店長の鴨田さん。


配達中は、地域のパトロール活動も担う


--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。