物づくりからつながりを 立命館大2年 又川諒

「その名刺、面白いですね」。図工室のような空間で、クリエイター男性が、名刺を自分で刷る別の男性に声を掛けた。デザインや創作を介し、人と人とが繋がる瞬間。交流の芽生えを、図工室の主宰者の菊池充洋さん(36)は嬉しそうに眺めた。

 仙台市若林区六丁の目にある製本会社「菊信紙工所」の一角に建つ、レンタルスペース「analog(アナログ)」。菊池さんは会社の営業部長の肩書と、analog代表の役職を持つ。インク30色、紙80種以上の素材と、印刷・製本の道具が並ぶ。自分だけの名刺も本もポスターも自由自在に編み出せる「自分のアイデアを形にしたい人の夢を叶える場所」だ。


1918年創業の菊信紙工所は長年、印刷会社から送られてきた刷った原稿を要望に合わせて断裁したり、綴じたりして本にすることを請け負ってきた。レンタル空間の提供という、業界でも珍しい取り組みを始めたきっかけは、菊池さんの友人からの相談だった。「左右どちらから開くかで内容が変わる『トリック本』を作れないか」。形になると、ツイッターで紹介され、「私も作りたい」との相談が来た。


「モノを作りたいと思う人を集め、一緒に作業することで楽しんでもらえるのでは」。製本業の先細りに危機感を感じていた菊池さんは、従来規格外として取り合わなかったニーズへの対応に活路を見出した。図工室の意図を分かり易く表現しようと、「自分で行う」「手動」を表すanalogと名付けた。


 充洋さんは、「analogを、コミュニティ形成のきっかけにしたい」と意気込む。物づくりに関心がある人がanalogに集えば、会社として顧客予備軍と接点を築けるだけでなく、創造性豊かな人同士が繋がると街を元気にするような発想が生まれるのでは、と期待するからだ。


「ありがとう、楽しかったよ」。analogで生み出した物の出来栄えを称え合いながら、利用者が図工室を出ていく。自由に物を作り出せる場から、人と人をつなぐ出会いの空間へ─。仲間づくりに製本業の未来を描く。


 



【写真説明】


analogで刷り上がったポスターの出来を確かめる菊池充洋さん(36)。物づくりに関心を持つ人たちとの出会いに可能性を見出す。


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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