住宅街の食のライフライン 東北大4年 田村崇明
「オカザキがなくなったら、俺干からびちゃうよ」。夕飯の買い物を終えた80代の男性客が言う。仙台市青葉区中山にある「オカザキスーパー」。看板の無料商品配達サービスを愛用している。
店は1971年創業の食品スーパー。三代目の社長岡崎敏郎さん(49)が、父で創業者の故俊雄さん、母の恒子さん(71)から経営を引き継ぎ、食を通じて地域に根差した取り組みをしてきた。
特に人気なのが、約40年前に始めた配達サービスだ。中山地区は坂道が多く、買い物に苦労する高齢者も少なくない。買い物難民を救おうと、商品を自宅まで無料で配達している。家族4人の食材を買いに来たという80代の女性は、「車がないので歩いて持ち帰るのは大変。本当に助かります」と語る。2005年からは、電話注文にも対応。冬は市営バスも運転を見合わせることもある中山の坂道を、店のトラックが駆け上がる。高齢者や病気がちな人にとってのライフラインだ。
配達用トラックに荷物を詰め込む岡崎社長
東日本大震災では、地域のために走り回った。仙台市内の多くのスーパーが休業に追い込まれる中、地震発生の30分後には既に店先での販売を開始。岡崎さんは、ガソリン不足を顧みず、問屋や市場を奔走した。手に入りにくかった牛乳は青森まで仕入れに行った。「中山の人がみんな困っている」と、品薄の中、懸命に頼み込んだ。食品を取りそろえた様子は瞬く間にSNSで拡散され、「オカザキに行けば手に入る」の合言葉のもと、大崎市や松島町など仙台市外からも客が殺到した。店の前に400人もの行列ができたこともある。
学校給食への食材の提供や、配達時の声掛けによる防犯活動など、長年地域と共に歩んできた。常連の高齢者に頼まれて家の電球を替えることもある。地域から必要とされている自負を持つ一方で、周辺の大型スーパーとの競争は激しい。岡崎さんは言う。 「経営は厳しいが、私たちがつぶれることで困る人は大勢いる。存続しなければならない」
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