絵本 思い出記憶する 仙台白百合女子大3年 真壁優
古くからの住宅地に一軒、異彩を建物がある。足を踏み入れると、そこは夢の世界。ミリオンセラーの絵本「いないいないばあ」から、世の中に25部しかないという私家本「とんぼとりの日々」まで、絵本好きにはたまらない1万冊を超える絵本が本棚にぎっしりと並ぶ。仙台市本青葉区北山にある「絵本と木のおもちゃ 横田や」。店主の横田重俊さん(68)、妻敬子(60)さんと夫婦に二人三脚で営む。
1978年創業以来、地元の親子らに物語の世界を届けてきた。「絵本は自分の知らない世界を旅させてくれる。たくさん旅して、成長してほしいんです」。横田さんの願いだ。
思いを端的に示すのが、「座り読み推奨」という異色のスタンスだ。立ち読み厳禁の店が多い中、横田やに来れば心置きなく、目当ての一冊を選ぶことができる。「絵本もネットで買える時代。でも、直接絵本に触れ、出会いを楽しんでほしいんです」。本棚から一冊を取り出す偶然の出会いを演出するのが書店の役目だと考えている。
横田さん夫妻は開店間もなくから30年以上、わらべ歌を聞かせ、絵本を朗読する「お話し会」を続けてきた。2011年の東日本大震災後は、津波で被災した沿岸部の小学校や保育所でも「お話し会」を開いた。願いは「絵本の世界を楽しんでほしい」の一点。「お話の世界に入り込んで、小さな『旅』をしてもらえれば、辛さや不安を一瞬でも忘れられるでしょう」。保育士に抱かれながら絵本の世界に浸る幼子の姿に、手ごたえを感じた。
お母さん、お父さん、保育園の先生、絵本やのおばちゃん…。子どもは絵本を読んでくれた人と共に、物語の思い出を記憶する。だから横田さん夫妻は、大人の客に対しては「皆さんが読みたい本を選んでくださいね」と呼び掛ける。
子供時代に横田やの絵本で育ったという母親が、わが子を連れて店を訪れた。「今日はこの絵本にしようか」。手をつなぎ店を出ていく母子の後姿を、横田さん夫妻は嬉しそうに見送った。
【横田重俊さん、敬子さん夫妻の笑顔とたくさんの絵本が店いっぱいに広がる】
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