【D班原稿】 機械時計屋しのだ 命吹き込み 時を進める

東北大3年 小林紘努

上智大2年 高橋惟

山形大1年 庄司菜々子

 動かなくなった懐中時計に、命を吹き込む作業が始まった。ドライバーの先に神経を集中させ、米粒ほどの微細なネジを締め、修理を進めていく。「手の感覚だけは誰からも教わることができないからね」。2月下旬の昼下がり、仙台市若林区の「むにゃむにゃ通り商店街」にある「機械時計屋しのだ」の二代目店主、篠田政信さん(73)が小さな机に一人で向かっていた。

 10坪ほどのこぢんまりとした店内に、腕時計や置き時計などの商品を収めた飾り棚が並ぶ。奥にあるスペースが仕事場だ。店の看板にも掲げる通り、主に機械時計を扱う。「クオーツ(電池式)時計は、部品の交換でしか直せなくてつまらないけど、機械時計は自分で調整できるから楽しい」。穏やかなまなざしに職人の矜持(きょうじ)が宿る。大正時代の懐中時計が修理に持ち込まれたことも。歯車の一部が欠け、同じ部品はもう手に入らない。別の部品を活用して歯車を作り直し、2カ月かけてよみがえらせた。

 この道一筋に歩み、半世紀を超えた。中学卒業後、東京の時計職人の下で約6年間修行を積み、地元仙台に戻ったのは21歳の時。創業者の父親(故人)と共に店を担い、父が一線を退いた後は一人で店を営む。「機械時計は、ぜんまいを巻いたり時間を合わせたりと手間が掛かる分、愛着が湧いてくる」と目を細めた。

 数々の時計を再生させてきた篠田さんが試練に直面したのは、約6年前。東日本大震災から一カ月後、落下の衝撃や津波による浸水で動かなくなった時計が次々に持ち込まれた。海水に漬かってひどくさび付いたものもあり、作業は難航。「海水だけはどうにも太刀打ちできなかった…」と今も悔しげに語る。

 機械時計の寿命は長い。点検で訪れる近くの連坊小路小には100年以上前の振り子時計があり、今も現役だ。「私より長生きするかもしれないね」。

 店は現在、7月頃の新装開店に向けて改修工事中。時計職人が少なくなった今、昔ながらの逸品をこよなく愛する人々のためにピンセットを握り続ける。



年季の入った置き時計のぜんまいを巻く篠田さん

河北新報社 記者と駆けるインターン

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