仙台木地製作所 青いこけしつなぐ伝統 明治大2年 落合美紅
鮮やかな青の染料で菊の模様を描くと、うっすらと木目が浮かびあがってくる。「顔料ではなく伝統の染料を使っているから、退色しやすいけど木目が見えるんだよ」。仙台木地製作所(仙台市青葉区芋沢)の若手木地師、佐藤康広さん(41)は語る。
今までになかった青い染料をまとったインディゴこけし。スタイリッシュな見た目から、こけしファン以外にも瞬く間に噂は広まり、一時間に数百本が完売する大盛況となった。
東日本大震災で東北地方の伝統工芸品に注目が集まる中、仙台木地製作所のもとにもさまざまな依頼が舞い込んだ。その一つがインディゴこけし。ファッションブランド「ビームス」のバイヤーの「青いこけしってないよね」の一言が契機となった。
伝統工芸の技術に深い理解を持つ彼らの期待に応えたい。康広さんは大正時代から仙台で親しまれる藍染めの技術に着目。青い染料の欠点である発色の弱さ、退色の早さを解消するために半年以上を要した。見た目の色から新しいと言われることもあるが、「こけしより古い技術の藍染を使うことで、古くしてやったと言いたい」。
2009年に勤めていた会社を辞め、翌年父正広さんに弟子入りした。木を切るところから鍛冶仕事で道具を作るまで、自分一人で行う木地師の営みに人間的な魅力を感じた。修行を始めて1年は木と向き合い続け、木地師に必要な「削る技術」の習得に励んだ。
受け継いだ伝統工芸の興味深さを感じ始めたのは、弟子入りして2,3年。新しい削り方に挑戦しても、「受け継いだ削り方のほうが、効率よく滑らかに仕上がる」と悔しさをにじませた。毎日ろくろと向き合うほど、江戸時代から続く先達の試行錯誤の上に自分のこけしが完成していると実感する。
今までこけしを手に取ったことのなかった層からの注目も集めたインディゴこけし。だが佐藤さんにとっては、青いこけしも、赤い染料で彩られた伝統こけしも、作品に込めた思いは変わらない。「インディゴこけしをきっかけに伝統に基づいた技術をみてくれたら」。
昨今のこけしブームの中、見た目の可愛さを重視する創作こけしも出てきたが、受け入れやすくするために、伝統をいびつにしたくないという思いは強い。「商品としての質で手に取る人を満足させたい」。康広さんは今日も伝統を形にしていく。
こけしに絵付けをする康広さん。
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