OKIRAKU DINING 伽羅(仙台市青葉区)日々の幸せつなぐ味 B班 東北福祉大 小山香奈絵

扉を開けると、昭和歌謡とにぎやかな笑い声の中から「お疲れ様」と店主の阿部由美さん(53)の通る声が客を迎える。カウンター8席のこぢんまりとした店内は茶の間をイメージした造りで、家庭的な店の雰囲気そのものだ。

 仙台市青葉区一番町の居酒屋「OKIRAKU DINING 伽羅」は、レトロな雰囲気漂う壱弐参(いろは)横丁の一角にある。単身赴任のサラリーマンや女性客らが、仕事帰りの一杯と家庭の味を求めてやって来る。 

 メニュー表には旬の食材を使った料理や定番の家庭料理に加え、必ず「その他」と書く。常連客が求めた料理を何でも作るためだ。「その日に食べたい物が食べられる店にしたいんだよね」

 阿部さんは南三陸町出身。結婚後は東京で飲食店に勤めていたが、娘たちの就職を機に宮城へ戻って来た。1週間が経った頃、東日本大震災に見舞われた。故郷は壊滅的な被害を受け、友人や幼馴染を大勢亡くした。

 突然に命を絶たれた人の無念さを思い、日々の幸せが当たり前には続かないことを悟った。「限られた人生を幸せに過ごしたい」。思い返すうち、幼い頃に抱いた自分の店を持つという夢の存在が再び頭をもたげてきた。2014年7月、人が集まる仙台で伽羅をオープンさせた。

 震災から8年。気付かされた日常の大切さが、世の中から薄れつつあると感じる。「日々の小さな幸せや、人とのつながりがある毎日をこの店で提供していきたい」

 年に数回常連客たちと旅行し、仙台を離れた客を訪ねることもある。なじみの客との関係は、家族さながらだ。常連客は「何軒もの店を飲み歩いてきたが、気付いたらここに落ち着いていた」と笑う。

 「店で居合わせた人の間でつながりが生まれ、仙台を離れても『また伽羅』に来たいと思ってくれたら嬉しい」。客のリクエストの料理を作りながら、阿部さんは笑顔を見せた。


自慢の刺身を常連に手渡す阿部さん。「カツオの刺身は生姜で食べてね」。

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。