PHOTOスタジオONE( 名取市)　その人らしく残したい　中央大2年杉山麻子

　「この表情良いでしょう。普段はほとんど笑わない人なんだよ」。和やかな表情の杖をついた年配女性を指さし、満足げに言う。名取市美田園にある写真館「PHOTOスタジオONE」の店主、斎藤正善さん（66）だ。名取市に87年続く老舗の三代目。東日本大震災以前は、名取市閖上に店を構えていた。

　地域の結びつきが密で家族のような町、閖上は、斎藤さんの故郷だ。震災で町全体が、波にのまれ、約800人が犠牲になった。斎藤さんの家族は無事だったが、店舗兼自宅を失った。

　「震災で写真の大切さをより感じた」と斎藤さんは力強く言う。震災後、避難先の体育館に集められた写真は、どれも泥だらけだった。故人を偲ぶ写真を見つけられず、悲しむ人の姿も見かけた。

　2012年2月、被災した店舗が集う仮説商店街「閖上さいかい市場」の一角で営業を始めた。古希や米寿の記念写真だけでなく、自分の生きた証を残したいと遺影の撮影依頼を受けることもあった。電話で予約を受けた時に、当日何を着るのか。どんな風に撮られたいかを簡単に打ち合わせする。お客さんが見えたら、まずお茶を出し迎える。そして、話をしながら撮影に入る。「煙草が好きなら、くゆらす姿を撮ろう」。会話の中で知り得たその人の個性を写す。以前、遺影の加工注文を受け、故人の服をパソコンで修正した時に別人のように感じた経験から、その人らしさを撮ることを大切にしている。

　震災後、写真の形式も工夫し、ラミネートを施すサービスを始めた。津波で汚れた写真を1枚ずつ洗っても修繕できなかったことが悔しかったからだ。耐水性があるだけではない。時間がたっても、全くカビが生えない。「うちの店でも取り入れてみたい」。写真仲間が沿岸部からわざわざ斎藤さんを訪ねてくることもあった。

　震災を超え、長く残る「その人らしい」写真を生み出す。今年末、8年ぶりに閖上に戻り、店を構える。斉藤さんはこれからも撮り続ける。

↑撮影した写真を、笑顔で紹介する斎藤さん。