PHOTOスタジオONE( 名取市) 写真で閖上をつなぎたい 上智大2年 寺原多惠子

 「もう少し体を横に向けてみて」。家族写真や記念写真が飾られるプレハブの店内に、明るい声が響く。声の主は写真館「PHOTOスタジオONE」の店主、斎藤正善さん(66)。東日本大震災以前は名取市閖上に店を経営していた。現在は震災で津波の被害に遭った店が集う仮設商店街の一角に店を構えている。

 大切にしているのは、その人らしさを撮ることだ。撮影前に一緒にお茶を飲みながら、人柄をどう収めるかイメージを膨らませる。着物好きな人は着物を着て。お酒と一緒に撮ったこともある。撮影中も声をかけ、相手が自然な表情を見せた瞬間にシャッターを切る。「柔らかい表情でしょう。普段は感情を表に出さない人なんですよ」。店に並んだ写真を見まわし満足げにほほ笑んだ。震災から8年。写真への思いは深まるばかりだ。

 斎藤さんの故郷、閖上は町全体が波にのまれ800人以上が犠牲になった。斎藤さんも家族は無事だったが、住居兼店舗が流された。その年の11月に、震災当日から撮り溜めた閖上の様子をまとめた写真集を出版した。手元に残った震災前の写真も入れ、町の変化が分かるよう工夫した。写真集を求めて、仮設住宅で生活する斎藤さんを訪ねてきた人もおり、顔なじみの人とも再会できた。「写真がみんなともう一度会わせてくれた」

 店の再開を望む声に背中を押され、2012年2月に仮設店舗での営業を始めた。昔からの客も来てくれた。震災前高校生だった女の子の成人式や、震災後生まれた子の撮影もした。写真の表面にラミネートを施す取り組みも始めた。津波で傷んだ写真を手にして悲しむ人を目の当たりにした経験から、写真の保存性を高めたいと考えたからだ。

 今年は斎藤さんにとって節目の年だ。12月の商店街閉鎖に伴って、斎藤さんは仮店舗を畳んで閖上に戻り、店を再建する予定だ。「閖上で笑顔をたくさん撮って、いつか町の写真展を開きたい」。期待を胸に、新しい一歩を踏み出そうとしている。

閖上の新店舗建設予定地に立ち、未来を語る斎藤さん

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。