【E班原稿】ミチ美容室(仙台市青葉区)髪に触れて寄り添う心

宮城学院女子大4年 及川裕未

立命館大3年    下林瑛典

上智大2年     岩崎瑠美


 「前髪、こんな感じでどうですか?」。店主の日下あきこさん(50)が鏡に映る客に優しくほほ笑んだ。仙台市青葉区子平町の「ミチ美容室」。15平方メートル余りの小さな店内は「町の美容室」らしい温かい空気に包まれている。

 1964年、母小池ミチ子さん(81)が開いた店。幼少期から母の働く姿を見て育った日下さんはごく自然に美容師となり、19歳で店を手伝うようになった。

 近所の常連客が足しげく通ってくれた。成人式や卒業式では着付けもし、出産時もほとんど休まず店に立った。客が自分の代わりに子どもをあやし、おむつを換えてくれたことも。「子どもが大きくなってからも、わが子のように気に掛けてもらった」と感謝する。

 穏やかな日常は2011年、東日本大震災で一変した。激しい揺れで全てのライフラインが寸断され、店は営業停止を余儀なくされた。毎日のように電話をくれた宮城県亘理町の伯母も津波で帰らぬ人となった。

 悲嘆に暮れながら、美容師に何ができるのか考えた。「髪だけでも洗ってほしい」。そんな住民の声を聞き、震災の10日後に洗髪を始めた。ガスは使えなかったが、水道と電気が復旧しており、三つの電気ポットで代わる代わるお湯を沸かした。髪を整えることは心を整えること。住民の喜ぶ顔がそう教えてくれた。

 涙を流して被災時の苦労を話す客もいた。「話を聞くのも私の仕事。少しでも気持ちが楽になってくれれば」。特別なことは何も言えず、ただ耳を傾けた。

 震災から7年半。町は落ち着きを取り戻した。髪を切るわけでなく、ただお茶を飲みに来てくれる客がいる。仙台に移ってきた大学生から不安や悩みを打ち明けられることも。来店できない高齢者がいれば家に出向いて髪を切る。客と過ごす何げない日々が尊く思える。

 「つらい時があったからこそ、お客さんの喜ぶ顔が何よりうれしい。これからもほっとできる雰囲気を大事にしていきます」。地域と共に-。創業以来変わらぬ願いを胸に、今日も笑顔で客を迎える。


常連客の髪を切る日下さん。「気分が明るくなってもらえれば」と話す


河北新報社 記者と駆けるインターン

2012年夏にスタートした、大学生向けの記者体験プログラム。 東日本大震災の被災地で、人に会って話を聞き、大事なポイントを見つけ、限られた字数で記事にする―。 そうした体験は、ジャーナリスト志望者のみならず、どんな職種職業にもつながる「生きる力」を養います。 このブログでは、学生の活動成果である記事と、活動中の日々の様子などを随時発信していきます。 募集告知もこちらで行います。

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