日本の3時を取り戻す 井ケ田製茶  D班

齋藤章吾(東北大3年)

三宅泰歳(法政大3年)

及川寛江(東北学院大3年)

橋浦ほのか(宮城大2年)






「すすーっ」。お茶の井ケ田一番町店(仙台市青葉区)に、お客さんのお茶をすする音が響く。一様にほっとした表情。急須で入れたお茶が心を和ませる。新茶の香りに包まれた空間には、穏やかな時が流れていた。



1920年創業の井ケ田製茶(同)は、急須で入れるお茶の力を信じ経営に当たっている。人と人をつなぐ力だ。常務の今野順子さん(58)は「お茶を通してみんなでだんらんしてほしい」と話す。



この思いは、東日本大震災から2年たった今年3月、宮城の各地に広がった。同社が呼び掛けた「日本の3時プロジェクト」。午後3時のおやつのひとときがもたらすだんらんを、見直そうという提案だ。





お茶を囲んで従業員と和やかに語り合う今野順子さん(右)=仙台市青葉区の井ケ田製茶



応募があった宮城県内を中心とした100社・団体に、同社は緑茶や茶菓子を贈った。プロジェクト実施日の3月18日午後3時、お茶でほっと一息つく和やかな光景が、あちらこちらで見られた。



ペットボトルのお茶が手軽に手に入る時代。急須で入れたお茶を飲む機会が減ってきている。同社はお茶になじんでもらうため、抹茶クリーム大福などの茶菓子を開発した。その結果、「子どもからお年寄りまで来てもらえるようになった」と今野さんは言う。



「のれんは古く、経営は新しく」。今野さんの父でもある先代会長井ケ田徳治さんの言葉だ。それはお茶を使った商品開発の原動力となった。先代の思いを胸に、手探りで始めた茶菓子作りは、今や人気商品を生み出すまでに至った。



「日本の3時プロジェクト」も、お茶文化が果たす役割を社会に伝えようとする、新たな挑戦にほかならない。参加企業からは「おいしかった」「お茶を飲むことを実感した」などの感想が寄せられた。多忙な人々に、ささやかではあるけれど、癒しの時間を届けることができたと同社は手応えを感じている。



プロジェクトはまた秋にも行われる。

「被災者コミュニティーからの応募があれば、ぜひ届けたい」と今野さん。再生に向けた長い道を歩む被災地の人々を、お茶の力が元気づけそうだ。



秋の午後3時、温かいお茶が体に染みわたる—。社会に安らぎを届ける井ケ田製茶の挑戦が続く。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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