急須のお茶を飲んで 東北大・斎藤章吾

急須から注がれるお茶から立ち上る湯気。日常の忙しさを忘れて一息入れる団欒の時間。仙台市青葉区にあるお茶の井ヶ田一番町店には急須で入れるお茶が作る和やかな時間が流れている。



「お茶を入れるところも含めて心を落ち着かせてほしい」。言葉に井ヶ田製茶常務、今野順子さんの想いが垣間見える。





急須でいれたお茶の魅力について語る今野さん=仙台市青葉区の井ケ田製茶本社





震災から2年が過ぎた今年3月。同社では「日本の3時プロジェクト」を催した。3月18日午後3時に宮城県を中心とした100社・団体で一斉にお茶を飲もうという企画だ。同企画には急須のお茶を通して団欒してほしいという同社の思いが込められていた。



ペットボトルのお茶が簡単に手に入る時代。人々は時間に追われ、急須でお茶を入れる暇がない。お茶を入れて人に出すという交流の一形態はその数を減らしてきている。今では急須が置かれている会社は少なくなっているそうだ。



「お茶を入れる段取りは面倒だけど、無心になれて忙しい時ほどお稽古をしたくなるんですよ」。茶道をたしなむ今野さんは急須のお茶の魅力をそう語る。現状に対して今野さんは『楽しい団欒を想像する会社』という同社の事業定理を引き合いに出す。一つの机を囲み、食事やお茶の時間を楽しむ。それが彼女の取り戻したい風景だそうだ。



東日本大震災は被災地に大きな混乱を生んだ。井ヶ田製茶は津波により多賀城店が壊滅するという被害を被った。店舗間で連絡が取れない場所もあり、さらに物流が滞ったため、「お茶を届けたいのに届けられない」という事態に陥った。大きな被害を生んだ天災から2年半が過ぎた今、人々に癒しを提供したいと同社は考えている。



『日本の3時プロジェクト』はその想いが反映したプロジェクトに他ならない。同社は「3時のお茶とお菓子」セットを無償で贈呈。参加企業からは「美味しかった」「お茶を飲むということを実感した」という声が寄せられている。



春のプロジェクトの対象は多くが企業だ。本来の狙いの中には震災で苦労していた避難所や仮設住宅の人々も含まれていた。しかし、被災者団体は構成が複雑で届け先が絞れず、見送る結果となった。



今年秋にも同プロジェクトが開かれる予定がある。「申し込みがあればぜひお茶を届けたい」と今野さん。今秋、被災者の人々はほっと一息つく機会に恵まれるかもしれない。 秋風で冷えた体にお茶の暖かさが染みわたる。井ヶ田製茶のお茶は宮城に温かい時間を広めていくことだろう。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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