暮らしで触れる玉虫塗 東北工芸製作所   E班

齋藤将志(東北大2年)

保坂一眞(東北学院大3年)

佐藤綾香(日本大3年)

小林千紘(東北学院大3年)




伝統に触れて。仙台市青葉区上杉にある東北工芸製作所が、東日本大震災後に発表した新シリーズは「TOUCH CLASSIC」と名付けられた。



サラダボ−ル、グラスなど6種16品目。深みのある黒、光る銀をまとったグラスは、しっとりと手になじむ。シンプルな形とモノトーンのデザインも、旧来の漆工芸とは趣が異なる。



店長の佐浦みどりさん(44)は「時代に合わせて伝統も変わっていかないと生き残れない」と話す。



東北工芸は1932年の創業。日本の近代デザインの礎を築いた「国立工藝指導所」をルーツに持つ。赤と緑を基調に、古典的な四季の花々や「月とうさぎ」などを描き、宮城県指定伝統的工芸品「玉虫塗」の製造販売元として親しまれてきた。



80年の営みも、震災発生後は休業せざるを得なかった。長期の休みは、1945年の仙台空襲以来だった。多くの人が家族や家を失い、傷つく中で、工芸品は必要とされるのか。事業の存続に危機感を抱いた。



1カ月後、店の電話が次々と鳴った。顧客から「工房は大丈夫ですか」という心配の電話だった。工芸品を欲している人がいたことに「このままじゃいけない」と営業再開を決意した。



2カ月後の営業を再開した後、出合いもあった。首都圏を中心に活躍してきたプロデューサーの木村真介さん(34)だ。「被災地の地元産業を盛り上げたい」と来仙。知人伝いに東北工芸を知り、訪れた。



佐浦さんと木村さんは共に、工芸品に危機感を抱いていた。安価で手軽な商品の台頭で販売は伸び悩むほか、洋風の住宅では出番も限られる。





自慢の商品を手にする、佐浦みどりさん(右)と木村真介さん(左)=仙台市青葉区上杉の東北工芸



「普段使いできて、和と洋を選ばないものを作ろう」。2人は意気投合した。工房職人の松川泰勝さん(50)とも何度も話し合いを重ねた。



新商品の中でガラス素材は初めての試み。松川さんは「新素材は失敗がつきものだが、よしやってやるぞ」と熟練の技で乗り越えた。



新シリーズの評判は上々だ。雑誌の特集を飾り、今まで縁が薄かった首都圏などの客層との接点が増えた。「It’s cool」と、海外からも、注文が舞い込んだ。



「漆器の魅力を常に肌で感じてほしい」と佐浦さん。震災を契機に生まれたシリーズに思いを込める。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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