支援を超えた先に 中央大・藤井かをり
窓から太陽が降り注ぐ明るい店内と、木目調のテーブルが演出する落ち着いた空間。ドアを開けると店員さんが笑顔で迎えてくれる。席に着き、注文をすると良い香りのカレーが運ばれてきた。ここは、仙台市宮城野区榴岡にあるレストラン「オリーブの風」。精神障がい者の就労支援を行うNPO法人シャロームが運営する。働いているのは精神障害者たちだ。
「あなたはそのままで素晴らしい」。弱さも含め、個性を認め合うことを理念とするシャローム。理事を務めるのは菊地茂さん(57)だ。「人のために働きたい」という思いから、行政書士の資格を生かして精神障がい者の支援を始めた。活動の拠点となるのは「オリーブの風」も含めた4つの施設。社会への自立を目標として支援する。
障がい者アートを前に語るNPO法人シャロームの菊池茂代表=仙台市若林区新寺、同団体が運営するレストラン「太陽とオリーブ」
シャロームでは「精神障がい者」のことを「チャレンジド」と呼ぶ。諸外国で使われる言葉である、「神様から挑戦すべきことを与えられた人」という意味だ。ここには、「精神障がい者」と「そうでない人」との線引きはない。「障がい」も、人間なら誰もが持つ「弱さ」の一つとして捉えられている。
精神障がいは「自分と他者の関係が上手くいかないことで発症する」と菊地さんは話す。だからこそ、シャロームでは「だめな自分を治す」のではなく「自分が必要な存在である」とチャレンジド自身に気づいてもらう支援を行う。
活動の成果が実った出来事がある。5年前、親以外と口をきかなかったジュンイチさん(23)。始めは言葉を発せず、ただ座っているだけだった。握手をしたり、励ましたり。積極的に関わりを続ける中で、昨年11月、終礼で突然言葉を発した。「良かったです」。その言葉に、周囲から大きな拍手が巻き起こった。菊地さんはそのときの喜びを忘れない。ジュンイチさんはその後、日常的に話すことができるようになり、仙台市内の洋菓子店に職を得た。
「障害者雇用を行う会社を増やすために、精神障がいについて知ってもらいたい」と語る菊地さん。そのために「まずはお店にお越し下さい」。
純粋に食事を楽しむ。そこに「支援」という言葉はない。「支援」という言葉の先に、チャレンジドと共に生きる社会がある。
--------
0コメント