セリの魅力 地道に伝える 東北学院大3年 中澤直哉

 


 


ふんわり香ばしいパン、サクサクと揚げられた春巻き。漂う野趣ある香り。


どちらも緑鮮やかな「仙台セリ」が使われている。


パンは名取市にある「ボンヌ・ジュルネ」、春巻きは市内の仮設商店街にある「おそうざい工房匠や」で作られる人気商品だ。


 


「新しい食べ方が地元で提案されるのはうれしいね」。


名取市下余田でセリ栽培に力を注ぐ大内繁徳さん(50)は顔をほころばせた。


地域の出荷組合長として40のセリ農家を率いる。


 



輝く深緑のセリ田に立つ大内さん


 


 


下余田に流れる名取川の地下水。


四季を通じて一定の水温を保つ澄んだ地下水が、良質なセリを育む。


2011年の東日本大震災では、沿岸部にある排水設備が津波によって壊された。


セリ田の水を下流に流せなくなり、下がった水温の影響でセリの緑は色を落とした。


「見栄えは劣るが味は大丈夫」。


地域の食材を避難所に届ける。


震災直後の「非日常」の中で、セリを食べて「日常」を感じてほしかったから。


栄養価の高いセリは、簡素な食事が続く避難所の人々に喜ばれた。


地元の人々にセリの存在を再認識してもらった。


 


組合の働きかけは、地産池消の新たな流れをつくった。


「セリ入りパン」「セリ入り春巻き」が生まれ、地域の人々に愛されているのはその証拠。


地産池消をさらに促進させるため、小学校3年生を対象とした栽培体験を継続的に行い、セリの魅力を伝える。      


下余田地区のセリ田が広がる場所から、視点を変え海側に目を向けた。


車でわずか5分。


いまだ、仮設住宅が立ち並ぶ。


 


伝統野菜の作り手として、何をすべきか―。


組合長は信じる。


「できることを地道にやるだけです」。


セリ栽培をリードする地域のリーダーは、今日もセリ田に入る。


 


     


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。