ジェラテリア ナチュリノ ジェラートが結ぶ縁 関西大 修士1年 辻井花歩

 ナチュリノのジェラートは、凍っていない。宮城県名取市のメロンや亘理町のイチゴなど、地元の旬な素材が生のまま使用されている。「こんな味がするんだ」。一口頬張れば、地域の恵みが心に沁みる。

 名取市にあるナチュリノは、毎日18種類以上のジェラートを並べる。掌のぜいたくを求める客で、寒い季節でも店にある28の座席が埋まるほど賑わう。代表の鈴木知浩さん(41)は、「ジェラートをきっかけに地元の素材や生産者の魅力を知ってほしい」と笑った。

 鈴木さんは、名取の食品卸売会社の2代目として生まれる。父から事業を継いだのは、東日本大震災直後だ。約30人の従業員のうち津波で4人が犠牲となり、社屋も失っていた。目の前に広がる傷ついた農地、東京電力福島第1原発事故の風評被害に苦しむ農家。古里の窮状に心を痛めた。「やられっぱなしでは終われない。みんなの頑張りが報われる道はないか」。ひらめいたのは万人から愛されるジェラート作りだった。

 素材を提供してくれる生産者を探し、県内各地を一軒一軒訪ね歩いた。ジェラートづくりに関してはずぶの素人だったが、物流業で培った温度管理技術には自信がある。経験は、産地から鮮度を保って素材を運ぶ工夫に生きた。

 援軍もいた。「ジェラートをつくりたい」と言うと、地元の人は店の用地探しを助けてくれた。地鎮祭の準備を主導してくれる人もいた。開店記念には「試食用のアイスにつかってくれ」と米が届いた。ジェラートが結んだ縁に支えられ、2015年7月、開店にこぎつけた。

 17年は事業を拡大する勝負の年になる。4月には、ネット販売大手の楽天市場に出店。低価格帯の新ブランドもつくる。より多くの人に地域の味が浸透することを目指した。

 ナチュリノは被災という苦い経験を甘いジェラートに昇華させた。地域の人の温かさに支えられたジェラートは、今春から日本中へと羽ばたいていく。



ジェラートと店に飾られた生産者の写真の中心でほほ笑む鈴木さん。アイスを手に

河北新報社 記者と駆けるインターン

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